野暮用で2011年11月末から12月上旬に渡英した私は、そのついでに彼らのオフィスとロンドン大学病院内に設営された専門病棟を訪れた。
フリーペーパー2号P.17(↑画像をクリックすると拡大します)
繰り返しのストーリーになってしまうが、私は自分自身が罹患する前からずっとTCTに興味を持っていた。2004年からほぼ毎年TCT主催のチャリティコンサートをロンドンで見てきていた。理由は、大好きなバンドのフロントマンが団体の後援者になっていたからだった。チャリティであるからこそやや高めのチケット。しかし満員御礼。若年性がんのオピニオンリーダーとなってくれるミュージシャンやコメディアンたち……。その意識の違いに圧倒された。これがチャリティ大国と呼ばれる英国なんだと改めて感じさせられた(若年性がんだけではなく、何十、何百という様々な問題に対して、それらが必要とする支援をボランティアとチャリティで賄えるのだ!)
このような大規模なコンサートを一週間も催したら、さぞや潤沢な資金が集まるだろう。一体それはどのように使われているのだろうか?今回の旅で、その一端を見る機会を得ることができた。
私が訪れたのはTCTが設営してきた十数の若年性がん患者用病棟のうちのひとつ、ロンドン大学病院内にある専門病棟になる。
専門ナース(カウンセラー)に案内され、白壁で明るい病棟を見て回った。はじめに通されたのは、軽食も取れる休憩室だった。そこにはキッチンや冷蔵庫もあり、患者の家族が料理することもできる。「どうしても色々なところにお金がかかるでしょ。だから節約したい家族もいるの。もちろん気分転換にロンドンで外食したい人だっているけど」と説明してくれた。経済的に家族を支えているのは病院の設備だけではない。飲料水会社は無料の自動販売機をそこに設置していた。
空いている個室も見せてもらった。患者用ベッドの横にある家族用の簡易ベッド。部屋にはキレイなシャワー室とトイレ(ロンドン市内のベーシックなホテルよりずっと素敵だ!)大変な闘病中も環境とスタッフが整えられていれば、頑張れるかもしれない。もちろん日本の医療現場も素晴らしい。ただ、ここで強調したいのは、この病棟すべてが若年性がん患者用に設計されているということだ。
次に足を運んだ談話室には、ゲーム機、楽器(ドラムやキーボード)、ビリヤード台 etc。小児でも成人でもない狭間の年代、彼らのニーズに応えた贅沢な空間だ。本来ならば所属しているだろうコミュニティ(学校やサークル)から切り離されてしまった若年性がん患者たちが、どれだけ自分たちの生活を取り戻せるか。そこに重きを置いているのだ。
その数日後、ロンドンのTCTオフィスでCEOのSimon Davies氏に会い、話をすることができた。日本からの来客ということで、彼は多忙なスケジュールから30分も時間を割いてくれ、熱心に日本の現状に耳を傾けてくれた。
どのようにしてTCTが始まったのか。医者や看護士、サポートしてくれるボランティアの方々をどのように巻き込んでいったのか。英国ではどのようにしてチャリティ事業が成立しているのか。本当に勉強になることばかりだった。
次のアポイントメントに入る前、Simon氏はウェブサイトの担当者らに私のことを紹介してくれ、担当者からしっかり話を聞けるように段取ってくれた。
さて、私はここでの経験をどのようにして還元できるだろうか。これはTCTと出会ってから今日まで、それから今後ずっと続く私のテーマになるだろう。
なお今回の旅では、TCTとは別件でオックスフォードにオフィスを構える
Helen & Douglas Houseも訪れた。Helen & Douglas Houseは世界初の小児用ホスピスとして1982年にオープンし、ここもまたチャリティで運営されている。
私が訪れた日はたまたま新しいチャリティショップのオープニングセレモニーがあり、CEOのTom Hill氏と一緒に出席させてもらった。テープカットでは地元小学校のコーラス隊がクリスマスソングを歌い、お菓子と飲み物が振る舞われた。レジに立っているのはもちろん地元ボランティアの方。カウンターにはクリスマス用にラッピングされた手作りクッキーも並んでいる。
チャリティショップに置かれている品々は善意で卸された新品もあるが、ほとんどが中古品である。日本の古着屋やリサイクルショップをイメージしてもらえばいいだろう。そこで家族や友人へのクリスマスプレゼントを選ぶ人々の姿は、私たち日本人には不思議に映るだろう。
ここでイギリスのチャリティショップ事情について少し説明したいのだが、近年チャリティショップはトレンドとも感じられる。「物を大切にする姿がカッコいい」とでも言えばいいのか。
さて、Helen & Douglas Houseに話を戻そう。
チャリティショップから帰ってきた私は、施設を案内してもらった。教会の横に立てられた施設には広い庭もあり、クリスマス前ということもあって綿の雪で小屋(小さなステージ付き!)が装飾されていた(なんと、クリスマス当日にはボランティアで本物のトナカイが連れてこられるらしい)。
施設内はTCTの病棟と同じく利用者の過ごしやすいように設計されていた。Helen HouseとDouglas Houseは小児用と若年性用に大きく二つにわかれている。共に対象年齢にあったファシリティの充実さに驚かされた。若年性用には10代~20代の子たちが楽しめるようなゲーム、バー、ミュージックルームが備わっている。食堂もオープンキッチンになっていて、その日に食べたいものをスタッフと相談し注文。シェフが作っている姿を見、そしておしゃべりをしながら「食べること」を楽しんでいた。
見てきたものを一言でまとめてレポートするのは難しい。ただ、今回も旅で感じたことは、「生き生きする」ためのシステムの大切さ。これは若年性がん患者の環境に限った話ではないはずだ。どこでも人々の「生き生き」が感じられる社会であってほしい。そして、そこに貢献できる自分でいたいものだと強く願う。
B-ko
*参考URL*
Teenage Cancer Trust: http://www.teenagecancertrust.org/
Helen & Douglas House: http://www.helenanddouglas.org.uk/